自然素材の小さなオフィス of 東京の建築家と建てる家 自然素材のデザイナーズ住宅 連合設計社市谷建築事務所

自然素材で建てるデザイナーズ住宅 東京の建築家と建てる家づくり

rengoDMS連合設計社市谷建築事務所

グッドデザイン賞受賞


Photo : Koshi Tarumi

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小さな自然素材のオフィス


[家のような・・・]

1日のうち働いている時間はどれくらいでしょうか。睡眠に8時間・働くことに8時間・プライベートに8時間。単純にそう分ける話はよく聞きます。仮に8時間として、すこし多めに働くとたちまち、起きている時間の半分以上をオフィスで過ごすことになります。そのオフィスを、できるだけ快適にしたい。家のようなオフィスにしたい――それが、クライアントのいちばん大きな願いでした。

敷地は、かつて栄えた商店街の一画。石畳に沿って古くからの商店が並び、一方通行の道を車や自転車が行き交います。
ほぼ正方形の敷地を、シンボルツリーと駐車スペースの区域・オフィス本体の区域の2つに分けました。シンボルツリーは、クライアント・工務店と探しまわったワビスケツバキとサンシュユ。道沿いにはイロハモミジを選びました。白・黄・赤の植栽が、味わい深く褪せた瓦屋根の町並に彩りを添えます。
アプローチには、カンパニーネームを掲げたスギの板目のRC塀と3台分の駐車スペース。駐車スペースからは、4m幅のシャッターを上げて倉庫へ直接荷物を運び入れることができます。シャッターの色はすこしツヤのある赤。1300年の時を経て深みを増した朱塗りをヒントに、試行錯誤・紆余曲折ののち出した色です。

家の姿は、シンプルな直方体です。屋根の形は、商店街と逆側に片流れとして、オフィスの真ん中で勾配を切替えています。オフィスは商店街に向かって開いて、商店街から離れるにしたがって天井が低くなり落ち着いた空間となっていきます。
「家のような・・・」の願いに、家をつくるように空間をかたちづくりました。出迎える部屋、くつろぐ部屋、働く部屋、しまう部屋。家ですから、どの部屋もできる限り自然素材で仕上げました。床はスギの板張りです。もちろん靴は玄関で脱いであがります。壁は珪藻土塗り。手仕事感が残る、白い塗壁です。室内の湿度の調整機能が一般的な珪藻土よりも優れている稚内珪藻土を選びました。


[あたたかく迎えるエントランス]

玄関は、あえて天井の高さを抑えて訪れた人々を包み込み、冬には赤々と燃えるストーブのあたたかさで出迎えます。ストーブのまわりには、糸のディスプレイ。クライアントが扱っている商品で、小さなホールをきらきらした光で満たします。少しお待ちいただくお客様には、ストーブに向かうベンチに腰掛けていただいて、ゆらゆらと燃える火と色とりどりの糸でおもてなしします。落ち着いた照明の下、壁面に並ぶ糸を眺めているうち「この色がいい!」とひらめく瞬間もあるかもしれません。
ストーブの煙突とワイヤー吊にされた糸巻は、1階ホールから2階へと上昇し、お客様を誘います。階段をのぼりきると、足元にはランダムな間隔のストライプグラフィックの床。糸のモチーフを使っています。


[町並を切りとるリビングのような応接スペース]

階段をのぼった突きあたりは、お客様を迎える応接スペースです。ここには、あえて壁や建具はつくっていません。こまごまと仕切るより、ひとつの小さな家の中にあるリビングのように、さまざまな人が訪れ、この家のあたたかさに触れる。そんな空間のつくり方をだいじにしたいと考えました。
ここにあるソファーに座って外に目をやるとちょうど、町屋の瓦屋根と空、そしてアプローチに植えたサンシュユが、ルーバーの額縁に入ったように見えてきます。ルーバーが、この部分だけ切りとられているのです。大きさは1.2m角。サンシュユの黄色い花がゆらゆらと揺れ、青い空をゆったり流れる雲が見え、海外のお客様も多いこのくつろぎの空間で、町屋の風景を絵画に見立てています。


[みんなで囲むダイニングのようなテーブルランドスケープ]

応接スペースから奥へと進むと、働く部屋にたどりつきます。真ん中にあるのは、長さ4mの大きなデスクです。ダイニングテーブルを家族が囲んでにぎやかに食事するように、スタッフ全員がひとつのデスクに向き合って、みんなの顔を見渡しながら働きます。テーブルに食器が並ぶように、デスクにはそれぞれのパソコンが並んでいます。壁際には書類棚。5.5m・3段分を全員で使い分け、それぞれの書類はこちらに収納します。棚の上、ちょうど目線の高さの小さな窓は真南向きで、朝からお昼過ぎまで部屋の空気をあたためます。
バルコニー側の大きな窓からは、木のルーバーを通した光が糸のように細くやわらかくさしこみます。ルーバーは、お昼すぎから夕方までの光を遮りながら風を通し、バルコニーを覆ってブラインドの役割を果たしています。4m弱にもなる長さに、時間が経つにつれて木が反ってしまうのではないかとの心配もありました。材料や留め方をさまざまに検討してアルミの反り止めを通し、この金物は、プランターボックスの居場所となります。大画面の糸状の光と格子のストライプを背景に、ボックスから伸びゆく草花がランダムに配置された眺めに、テーブルから季節を感じることができます。


[気配を感じる畳の間]

どの会社でも・どのスタッフもそうだと思いますが、オフィスでは誰もが、絶えず働いているわけではありません。ヤマ場を越えてひと息・食後にひと息・書類の山が減らなくて(!)ひと息・・・、そんなさまざまなひと息のためのスペースが、ここにはあります。オフィスの隅にある小豆色の戸。これを開けると、琉球畳の2畳間があらわれます。窓からさしこむ光はほかの部屋と同じですが、畳に座ると・寝転がると、家に帰ってひと息ついているような気持ちになってしまいます。難しい仕事の作戦を練るやわらかい頭にも切替えられそうです。
畳の間を仕切る壁は、床から2.1m。背の高いついたてのような感覚です。働く部屋のざわめきは聞こえてきますが逆にそれが遠くに聞こえるのが、いいのかもしれません。完全に切り離された、しん、とした場所ではないことが、ひと息つくにはいいのかもしれません。

施工中、朝に昼に晩に、たくさんの人々が現場の前を行き交っていました。わくわくした表情で見ていく小学生、何ができるのかしらと見上げるおばあさん、興味深げにのぞきこむお母さん・・・。フレンドリーな空気に包まれる小さな家。その空気感が、使われるほどにすこしずつすこしずつ、深まっていくことを願ってやみません。


(仙道香理)

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