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[山焼きが見たい]
薬師寺にほど近く、道路から1mほど高い角地は、先代から受け継いだ植栽に包まれていました。石積みのアプローチ。玄関先にはおじいちゃんがだいじにしていた松。
「若草山の山焼きが見たい」——この家は、そこから始まりました。新年を彩る若草山の山焼きは、起源は諸説ありますが、3つ連なる山をほぼ焼き尽くす伝統行事です。それを新しい家から家族みんなで見たい。その願いの下、家の骨格を決めていきました。
若草山を臨む北東角に、バルコニー。1階には南側の庭に面して17畳のリビングとダイニング。キッチンはダイニングと向き合う対面式です。家事をしやすいように考えたパントリーとサービスヤード。ここから外へ、デッキへとつながっていきます。
角地にどっしり構える総2階の部分は、片流れの屋根が若草山目指して上がっていきます。外壁はスギ板の横張り、色はダークブラウンです。それに合わせて、屋根や雨樋も濃い色で仕上げました。濃い色のボリュームに、2つの小さなボリュームが寄り添っています。同じ濃い色で仕上げた部分はキッチンとパントリー。白い塗り壁の部分はゲストルームです。3つでひとつの、5人家族が暮らす空間です。
家の中の仕上げは、自然素材でまとめました。床は、足触りのよいスギ板です。壁は白い塗り壁、天井は低い部分は壁からつなげて白く塗っています。屋根勾配に沿った天井はスギ板。吹抜のスノコも、スギでつくりました。
[家の玄関/家族の玄関]
おじいちゃんの松が出迎えるアプローチから玄関に入ると、正面壁面の下半分には飾り棚。奥様が集めている雑貨をたくさん飾っていただけるよう、さまざまなかたちの棚をつくりました。上半分は繊細な格子を入れました。格子越しにリビング・薪ストーブ・2階へつながる階段が見えます。ただいま、と帰ってくると、おかえり、と家族が迎えてくれる。当たり前の家族の風景が当たり前にあるようにと願ってつくりました。
実はこの家には、玄関が2つあります。飾り棚と格子があるのが、家の玄関。この家を訪れたすべての人が使います。
もうひとつは、家族の玄関。家の玄関の右手側、引込戸を開けて入ります。壁面には両側にずらりと収納棚。幅1.5mに渡ります。家族5人分の靴、傘、帽子・・・、外に出掛けるときのものを一手に引き受ける収納です。郵便受けや鍵おきば、ほうきや靴磨きセットといった外との接点も、この一角に納まっています。出掛けるときは、引込戸の裏に隠された大きな全身鏡でみだしなみを整えます。
[内と外がつながるリビング]
玄関ホールの引戸を開けると、リビングとゲストルームをつなぐ廊下です。廊下の窓越しに、坪庭のナンテン。総2階の1階1坪分をくりぬいた坪庭です。足元にはユキノシタ。季節ごとに庭を彩り、訪れる人をおもてなしします。
17畳のリビングとダイニングにはそれぞれ、木製の大きな窓が入っています。全開するとその幅2.7mずつ。部屋の床と高さを揃えたデッキへと、つるりとつながっていきます。窓の背は1.8mと低めですが、幅が十二分に広いのでカメラの絞りが効いているように庭への眺めが引き締まって見えてきます。デッキは、春や秋には外のリビングになるでしょう。花びらや葉っぱが舞い落ち、デッキのダークブラウンが彩られます。
冬にはリビング真ん中の薪ストーブが赤々と燃え、家中をあたためます。吹抜天井でゆったりまわるシーリングファン、ゆらめく炎に、時が経つのを忘れさせます。
[キッチン]
キッチンは、対面カウンターがついた白いシステムキッチンです。カウンターと流し台の間に立ち上がる壁に敷きつめた小さな白いガラスのタイルがアクセントです。
流し台の上には、あえて吊戸棚はつけていません。取り出しやすいように・しまいやすいように、棚板だけの収納です。振り向くとカウンター。トースターや電子レンジを置いたり、作業台として使っていただきます。上下には引違い扉付の収納です。こちらと、キッチン西側につくりつけた食器棚に、食べることに関するもの全て、収納します。食器棚の上には、スリット状に窓をとりました。デッキへ向けて家の中を風が通り、夜にはキッチンの灯りがもれて帰ってくる家族を迎えます。
[パントリーと食品庫]
この家の大きな特徴のひとつは、収納力です。家族の玄関には外へ出かけるときのものが集まっています。キッチンの奥には、4畳のパントリーと食品庫。食品庫にはあえて扉をつけず、料理の手を止めさせません。
パントリー南側には小さな窓があいています。晴れた日には太陽の光を受けてきらきら光る木々を臨めます。そこにのびる2mのカウンター。アイロンかけやパッチワーク、オリジナルのレシピノートづくりをします。カウンター上には飾りながら収納する棚が2段。下には細いパイプを通し、S字フックで吊るして収納します。
洗濯機もパントリーに置いています。床はタイル張り。デッキ脇のテラスから続く、石の雰囲気のタイルです。真ん中には奥様が東京で見つけてきた白い組タイルを入れました。壁には、ガーデニング用のカッパやスコップ、ドライフラワーを下げられるフックを取り付けています。こちらも、奥様があちこち探して見つけてこられたものです。
洗濯物は、洗濯機からサービスヤードの物干へ。約2畳、木のルーバーに囲われていて小雨の日でも干せるように屋根をかけました。泥だらけの靴を洗う外流しも取りつけていて、庭への水やりにも使えます。キッチンからパントリーへ、サービスヤードへ、そして庭へ。自然な流れで暮らしが進んでいきます。
[それぞれの居場所]
主寝室は1階、リビングの奥です。8畳間には東・南の2辺にぐるりとカウンターがまわっています。東側の壁面いっぱいには、書斎がほしいとのご主人の願いにこたえたデスクと本棚をつくりつけました。南側にはヘッドボード。目覚まし時計や携帯電話、めがねなどを置ける、出幅の小さいカウンターです。昼間には日の光が障子越しにやわらかくさしこみます。
2階は3人姉弟それぞれの部屋。若草山へ向かう屋根の勾配に沿った天井の高さで、3部屋共表情が異なります。上の2人の部屋は、床も白い塗装で塗込めました。白い床と白い壁、そして白い天井。照明はガラスシェードのペンダントライトが下がり、アパルトマンの雰囲気です。部屋の外には、2人で4畳分のウォークインクロゼット。たんすの容量を気にして買う服の数を抑える必要はありません。部屋が服に占領されることも、ありません。
いちばん東側は、末っ子の部屋です。いちばん高いところで3.4m近く。ゆったりした空間になりました。軽くボールを投げても、すぐに天井に当たって予想外のはね返りがあることもなさそうです。南側には大きな出窓。庭先の木々の頭がゆらゆらと揺れているのが見えています。庭から見ると、ダークブラウンの板張りの中で四角く白いこの出窓が、アクセントになっています。
今お住まいの敷地内での、新しい家づくり。家族が暮らす家ができあがっていく様子を、クライアントは日々見守っていました。現場と図面をじっくり見ていたご主人。工事の進捗に合わせて、照明や取っ手など住まいのパーツを買いに行かれた奥様。3人姉弟も、部屋のかたちができあがるにつれ興味津々で入ってみたりしていたそうです。
これから家族5人が年を重ね、家族のかたちがさまざまに変わっていっても、みんなで山焼きを見るというかたちは変わらないでほしいと、願っています。
(仙道香理)











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